
ゲームとプレイヤーを繋ぐコンテンツづくりがしたい
ゲーム総合誌『週刊ファミ通』編集人?編集長の林克彥さん。雑誌、SNS、動畫、WEBメディア「ファミ通.com」を通してゲームの楽しさを発信しています。プレイヤー個人やゲーム會社などが情報を発信するようになった今、ファミ通がゲーム業界やプレイヤーとどう関わろうとしているのか、お話を伺いました。
Qゲーム雑誌の編集者となられたきっかけを教えてください。
ゲームは好きでしたが、きっかけはプロレスと『週刊プロレス』でした。
僕が小學3~4年生の頃、タイガーマスクが大ブームだったんです。かっこよくてテレビでプロレスを見るようになり、プロレス雑誌も読むようになったんです。
當時のプロレス雑誌には『週刊ゴング』と『週刊プロレス』という雑誌がありました?!哼L刊ゴング』は試合の寫真が綺麗な印象で、まとまったレポート記事が書かれていました。一方、『週刊プロレス』は、當時の編集長ターザン山本さんの方針だったと思いますが、例えば、あるプロレス団體のダメなところ、魅力的なところ、など記者のポリシーが誌面に表れていて、人間臭さを感じる面白い記事だったんです。それで、『週刊プロレス』のような雑誌で原稿を書く仕事がしたいと漠然とですが思い始めました。
高校を卒業すると、編集者になることを目指して、日本ジャーナリスト専門學?!ˉ偿螗豫濠`タ編集専攻科に進學。専門學校在籍中に、飛鳥新社が當時発行していた『日刊アスカ』というタブロイド紙のプロレス欄で記者のアルバイトを始めました。當時は、會社にあった仮眠室で寢起きしながら毎日記事を書いていましたね。アルバイトを始めて3カ月ほど経ったある日、『日刊アスカ』が休刊になると知らされました。

Q同時に契約も解除となったとのことですが、そこからどうやってファミ通へ。
専門學校に通っていた頃、3D格闘ゲーム「バーチャファイター」にもはまっていたんです。プロレスの記者のアルバイトを辭めた時、一時金としていただいた15萬円をバーチャファイターにつぎ込み、足りなくなると友達に借金してまでバーチャファイターをやっていました。このままでは自分がダメになると思い、當時、バーチャファイターの記事が一番面白かった『週刊ファミ通』が、アルバイトを募集していたので、応募して働き始めました?!哼L刊ファミ通』も『週刊プロレス』と同じように、記者の熱量や思いが誌面に表れていたんです。
アルバイトとして數年働いたのち、ゲーム業界のニュースページを擔當させてもらいました。その後、メーカーが新しいゲームタイトルを発表する時、どうすれば宣伝効果を上げることができるか、メーカーも読者も満足するような斬新な展開案をプランニングする部署も経験しました。
Q印象に殘っている取材、記事があれば教えていただけますか。
プロレスの記者のアルバイトをしていた頃の話ですが、新日本プロレスなど大手の団體は、歴史のあるプロレス雑誌さんやスポーツ新聞の擔當者がいて、僕のような新參者はなかなか入り込むことができませんでした。當時の新興団體でプロレスが面白かった盛岡の「みちのくプロレス」は、僕のような新參者の取材も受けてくれて、直接選手の方への取材もさせてもらえました。當時のことは、とても良い経験として覚えています。
ファミ通で働き始めてからは、任天堂の社長をされていた巖田聡さんの取材が印象に殘っています。取材した當時は、任天堂の経営企畫室長をされていました。巖田さんはビジョンがとても明確な方で、ゲームの特徴や開発の経緯などを、ユーモアを交えながら流れるように話されていました。取材が終わった後も編集する必要がなく、そのまま完成稿がそこにあるという感じでしたね。

今年7月、『巖田さん 巖田聡はこんなことを話していた?!护霭妞丹欷蓼筏?。この本を編集された「ほぼ日刊イトイ新聞」の永田泰大さんは元『週刊ファミ通』の編集者で、僕の大先輩にあたる方なんです。いまもそうですが、人を惹きつける魅力的な文章を書かれる方でした。その永田さんが編集した『巖田さん』を読んで、助けられたような気持ちになったんです。巖田さんは、僕たちが仕事で悩んでいる時や、將來に不安を抱いている時に、背中を押してくれるような発言をされていました。この本を読んでそれを再確認できました。社內のいろいろな人に巖田さんの本をすすめています。
Qファミ通がゲーム業界で擔っている役割、使命について、どのように考えていますか。
僕たちは商業誌なので広告費は必要です。ただ、メディアとしての信念を持ってやっているつもりです。
『週刊ファミ通』には、うちのレビュアーがゲームをプレイして點數をつける“新作ゲーム クロスレビュー”というコーナーがあります。よく「クロスレビューは、広告費と連動しているんでしょ」と言われますが決してそんなことはありません。仮に、レビュアーが10點満點中6點だと判斷すれば広告費に関わらず6點をつけます。インディーゲームでも、面白くて魅力的なら高得點をつけます。
僕らの昔からのスタンスとして、ゲーム業界をポジティブに応援したいと思っているので、ゲームのいいところを見つけるのはもちろん、改善したほうがいいと思ったところも伝えるべきだと考えているんです。僕たちは、大事なゲームタイトルをお預かりして、魅力をさまざまな形で伝えるという仕事をしています。業界とともに歩み、業界を盛り上げていきたい。そのためのゲームメディアとしての役割を果たしたいと思っています。

Qゲーム業界が盛り上がっていくためには、今後どんなことが必要だとお考えですか。
若いゲームクリエイターにどんどん出てきて欲しいと思っています。
若者がゲームに興味を持って遊ぶようになり、彼らの中から才能あるクリエイターが生まれて、開発した作品がヒットする。そういうサイクルが必要だと感じています。その若いクリエイターが、どういう意図でその作品を企畫したのかなどを、取材して伝えることができるといいなと思っています。
大手メーカーで、開発費が何十億円というようなゲームプロジェクトは、実績のあるプロデューサーやディレクターが擔當するので、なかなか若い人にチャンスがめぐって來ません。今の50代60代のレジェンドの方が20代の頃は、本當に少人數のチームで、徹夜してゲームをつくっていました。年に1~2本のタイトルを開発するというようなことができていたんですが、今はできなくなっているのかなと思います。
一方で、個人や少人數で開発するインディーゲームがダウンロード販売され、そこからヒット作が生まれるという道筋ができつつあると感じています。まだごく少數ですが、それで成功された方もいます。大手がつくる大きいタイトルだけではなくて、インディーゲームにも僕たちなりの視點で注目をして、インディーゲームのクリエイターを取材する活動も始めています。
Q情報を得る手段が雑誌からインターネット、SNSへと変わってきています。雑誌の強みはどういうところでしょうか。
以前の『週刊ファミ通』はゲーム情報誌で、特集記事は10~20ページでした。今は、ひとつのコンテンツで、50~70ページの特集を組むことが珍しくありません。インタビューの場合も、前もって読者アンケートを取り、それを誌面に反映するような取材をします。開発スタジオの中を取材して誌面に反映する。ここでしか見ることができないキャラクターの設定資料を誌面に反映させる。
そのタイトルが好きな皆さんに喜んでもらえるような特集をつくり、そのコンテンツ目當てで買ってもらった上に、他のゲーム情報にも觸れてもらうことが『週刊ファミ通』の役割だと思っています。柱となる特集を一番大事にして、その特集と表紙をきっかけに手に取ってもらおうという風に変わってきました。
今はメーカーが獨自で情報を発信したり、その情報を元にして、個人の方が感想をツイートしたりと、僕たちを取り巻く環境が変わり、『週刊ファミ通』はコンテンツ誌へと変化しました?!哼L刊ファミ通』の発売日にツイッターで、昔購読されていた方が、「表紙の特集を見て、久しぶりに買って読んだら面白かった。また買ってみようか?!工趣いΔ瑜Δ圣磨ぉ`トを見つけると、當然嬉しくなります。

Q今後、どんなことに挑戦しようと考えていますか。
ゲーム情報をより早くかつ正確に発信する役割は、ファミ通.comなどのWEBメディアが擔っていくと思います。発売前のタイトルを聲優さんやタレントさん、あるいは僕たちがプレイしてその魅力を伝える。聲優さんが、ゲーム制作の深い話を屆ける。そういう映像番組をメーカーと連攜して配信していくことに力を入れていきたいと思っています。
ゲームを楽しんでいるプレイヤーの熱量を可視化して、熱量が高いファンの皆さんに満足してもらう記事やコンテンツをつくらなければならないと思っています。
ゲームの中には、メジャーではないかもしれないけれど、その裏側に、実は熱量の高いプレイヤーが何萬人もいる、という作品もあります。そういった作品を『週刊ファミ通』の表紙にして50ページなどの特集を組むと、その號の売れ行きは非常に好調なんです。ファンに喜んでもらうだけでなく、自分の知らないゲームに興味を持ってくれる人や、コンテンツのファンを増やしていきたい。そういう事例をたくさんつくっていくことが、今僕たちがやるべきことだと思っています??梢暬筏繜崃郡?、イベント開催やグッズ開発にも生かしたいと考えています。
また、僕たちが持っているコンテンツを東アジア全域、さらには東南アジアにも広げていきたいですね。中國で「チャイナジョイ」というゲームのイベントに出展した時、中國のゲーム関係者の方々が、驚くほどファミ通のことを知っていました。僕たちは、きちんとしたアプローチをして、東アジアでファミ通というメディアを広げていきたい。そうすることによって、日本でファミ通を続ける意義、役割がより強くなると思います。
Q最後になりましたが、林さんにとってゲームとは。
ご褒美でしょうか。プライベートの時間に、仕事と関係のないゲームを自宅でするのが楽しみです。趣味というか、ストレス発散や息抜きのためにゲームをする。ゲームはやっぱり楽しいです。
(取材日:2019年8月27日)

林克彥氏
- 媒體名
- 週刊ファミ通
- プロフィール
- 1973年青森県生まれ。1994年から『週刊ファミ通』編集部に勤務。2013年4月より『週刊ファミ通』編集長に就任し現在に至る。